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対談企画 『職場の現象学』から見る、創造的な組織のつくり方【後編】

こんにちは。RELATIONSの広報です。
今回は、『職場の現象学』の著者でもある露木恵美子教授と弊社代表・長谷川の対談の【後編】をお届けします。

▼【前編】はこちら

“社内の関係性”と“顧客との関係性”は合わせ鏡

●長谷川: ここまでは社内についての話を伺いましたが、顧客支援においての”創造的な場づくり”について、露木先生の考えをお聞かせください。

●露木: 私が以前務めていた前川製作所は産業用機械メーカーですが、「お客様が言った通りに作ったら失敗する」とよく言っていました。つまり、お客様とのコミュニケーションのなかでお客様が言葉にしてくださることは、本当にお客様が困っていることの10~20%でしかないということです。
現象学では、情動的コミュニケーションと言いますが、「私たちが頭で考えたり、目に見えたりしているものの背景には、つねに人と人との間に共有された感覚の領域が働いているんだ」と理解することが大切です。

情動的コミュニケーションの図
『共に働くことの意味を問い直す ー職場の現象学入門』より

つまり、お客様がインパクトを受ける”市場”を、私たちがお客様の立場で見たときに果たしてどう見えるだろうか?という、お客様が言葉にしていないけれど大切な”背景”を想像し、理解しようとすることを徹底していました。RELATIONSさんに置き換えた場合、コスト最適化をしたいとお客様が思う背景には多様な異なる意味が隠れていると思うのです。対話と想像を重ね、隠れている部分が共有され、共感するからこそ、お客様が本当に困っていることに対して説得力のある提案ができるようになっていきますよね。
そういう意味でも、企業とお客様とのやりとりは合わせ鏡だと思っています。自社内で情動的なコミュニケーションを大切にできていないのに、お客様先ではできる、ということはあり得ないんですよね。自社内で「自分たちは何者になりたいのか?お客様に何を提供したいのか?」について共通感覚がなければ、お客様ともそのような深い会話はできないはずです。

●長谷川: 本当にそうですね。”組織内のメンバーの関係性が外に影響する”というのはまさにその通りだと感じています。社内のメンバーで侃々諤々と議論し、メンバー間で身体感覚がつながっているときのプロジェクトは、提案が顧客にしっかりと届くことが多いです。本気度が滲み出て伝わっているような。そうするとお客様も”こいつらには信頼できるな”となり、本音が表出され、場が活性化していきいきとしたプロジェクトになっているなと感じます。

●露木: 始めは難しいのですが、プロジェクトのフェーズが進む中で、お客様が展開しているバリューチェーンまで遡り、源流に戻った上での提案ができればそれは素晴らしいことだと思います。各々が感じる違和感や、言葉にできていない感覚をいかに共有し、本質的な課題を特定し、乗り越えていけるか。乗り越えていくプロセスを通じて、本当の意味で「つながる」感覚が生まれますし、それが創造の一番の源泉だと思います。

●長谷川: たしかに、一歩ずつ感覚をともにしながら歩んでいくことを積み重ねると、徐々に変化していくというのはイメージが湧きます。
私たちはいま営業プロセスの変革をしようとしていて。初期の段階からもう少しお客様の声を聞き、同時に私たちの見立てや想いもしっかりとお伝えすることを試みています。なかには受け取れるもの、受け取れないものが双方にあると思うのですが、まずは想いの交換からプロジェクトが生成されることが大切だよな、とあらためて感じています。

官僚制組織からの脱却に必要なこと

●長谷川: ”場”というものがいまの経営学の観点から見てどのような立ち位置にあり、今後はどのように展開していきたいと考えていらっしゃいますか?

●露木: 組織論は長い歴史がありますが、基本モデルが官僚制なんですね。日本では大量生産・大量消費と言われる時代を経て、官僚的な組織が一定の成果を上げるなか、気がつけばそれしか知らない社会になってしまっていた。官僚制の限界をどこかで感じる人は多いけれども、急に「フレキシブルに動きましょう」と言ってもなかなか難しいところに来ています。だからこそ、自律分散型で動く組織に対しての一種の”憧れ”のようなものを抱いている人も多いのでしょう。
なかには”本当に変わらなければいけない”という危機感のもと、社員の関係性や、心理的安全性に取り組んでいる企業もあります。しかし、自律分散やティール組織の実践をされている事例はまだまだ少ないのが現実です。

●長谷川: 確かに、憧れはあるのかもしれませんね。弊社のホラクラシーミーティングを見学される方からは「本当にこんな組織運営が実現できるんですね!」という驚きの声を多くいただいています。

●露木: どのような形かは分かりませんが、官僚制の組織から違うスタイルに挑戦する企業さんは今後益々増えていくと思います。そのときに注意していただきたいのは、御社のように”自社オリジナルのフレーム”を作らないといけない部分もあるということです。ホラクラシーの枠組みを取り入れればそれで万事解決とはならないんですよね。
そこで日本の思考様式、行動様式に合っている”場”の考え方が役立つのではないかと。村社会のころから、日本は”場”で動くことが当たり前でした。阿吽の呼吸がよしとされていたし、それで効率よく動くことができていたんですよね。

●長谷川: 共感します。共同体をつくる力や、色々なものを感じ合う力は、日本文化に強く根付いていますよね。それが日本の経済復興の中心的なパワーになっていたような感じもしています。
官僚主義的な縦の構造が日本は強いので、少しフラット化し、全体の力を活かしていくことができれば、場がもっと躍動するイメージも湧きますね。

●露木: 現代はシニアやセニョリティの人たちの知恵が通用しない、それだけでは解決できない市場の動きになっています。さまざまな世代が知恵と知識と持ち寄らなければ解けない問題が増えている。そのためにも構造を変えていく必要はあると思います。
また、なにかを意思決定する際にも、”場”が決めるということがベースにあると良いです。本当にみんなが共有できる落としどころを見つけていくということです。100%の合意ではないけれど、90%くらいにはできるはず。それが一度決まると、それぞれがそれぞれの想いのもとに自律的に動くことができるんです。
昔の村社会でいう長老のような存在が、意思決定となる一言を言うかもしれませんが、あくまでそれはトリガーです。本物の長老は管理者の役割ではなく、場を活かす存在であるべきなんです。そのような意思決定のあり方自体が、一つの「合理性」だと私は考えています。

仮説検証を繰り返しながら、フィールドを広げて世界へ

●長谷川: 露木先生の今後の展望をお聞かせください。

●露木: 今後は、職場の現象学を世界に広めていきたいと考えています。経営論の多くは欧米から来てますが、”場”という考えは欧米にありません。欧米の方々が行き着く悩みとしてよく聞くのは、「システマチックに組織を動かしているし、あらゆる制度も取り入れてタレントマネジメントもしている。それなのに、やっぱり職場の関係性がうまくいかない」ということなんです。結局そこに戻ってくるんですね。
日本では伝統的に場のなかで物事が動いていくんだよ、という話をすると、”それは面白い!”という反応があります。自分たちが求めていた答えが”場”にあるのではないかと。
日本人は、きっと欧米に答えがある!と思いがちですが、実は自分たちの足元に答えがあると私は思っていて。正直、場とつながることは時間もかかりますし、面倒なことも多い印象がありますよね。実際、場のなかで抑圧されてしまったり、同調圧力があったり、さまざまな階層関係のなかで納得のいかないことも沢山起きると思うのですが。それでもうまく場の力を使うことによって、形式知化しなくとも、阿吽の呼吸のように、ものすごく効率的に、合理的に動くこともできるんです。それが場の理論の次のステップへの可能性かなと思っていますね。
来年度中には書籍を英語で出版し、活動を広げる予定で動いています。

●長谷川: 素敵ですね。”場”という考え方は、やはり日本の強みの一つとして捉えられますね。まだ認知している人が少ない領域なので、その視点が社会に共有されていくと、組織の見え方も変わっていくのではないかという期待があります。ケーススタディとして、ぜひ弊社もうまく1つの現象として活用いただけると嬉しいです。
また、私自身としても「生命力あふれる会社」を探求するなかで、いまあらためて”日本”に着眼点を置いています。日本の歴史や変遷、思想を大切にするからこそできる日本の組織づくりがあるのではないかと。日本に存在する魂のような軸足を明確にできると、力強く組織は前進していくのではないかと思いっています。
自社で実践して探究をつづけながら、それを社会に伝えていきたいです。そのためにも、今後は自社の実験場としてのフィールドを広げていきたいと思います。
とても興味深いお話をお伺いできました。ありがとうございました!

(執筆:斉藤 里菜)

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