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対談企画 『職場の現象学』から見る、創造的な組織のつくり方【前編】

こんにちは。RELATIONSの広報です。
今回は、『職場の現象学』の著者でもある露木恵美子教授と弊社代表・長谷川の対談を前編・後編に分けてお届けします。職場という”場”における、組織と人の可能性をひらくために大切な要素について、現象学と現場、それぞれの視点で語っています。

露木 恵美子先生について

露木先生と弊社代表・長谷川との出会いは、前川製作所について書かれた書籍『マエカワはなぜ「跳ぶ」のか』がきっかけでした。書籍を読んだ長谷川が感銘を受け、さらに深く知りたいと思い参加した露木先生の勉強会がはじまりでした。

露木 恵美子先生
  • 専門は組織論、戦略論、ベンチャー起業論。組織論からスタートして、場の現象学を研究のメインテーマとして扱う。その他、リーダーシップに関する組織行動論をベースに、リーダー育成、職場の関係性改善、チームビルディング、スタートアップ家の輩出等のプログラムを展開。最近ではヨーロッパで関係性改善のためのワークショップの実施や、国際的な視点で自律分散型組織の事例収集をするなど、活動の幅を広げている。

  • ”プラクティショナー(実践者)であり続けたい”という信念のもと、前川製作所の社員として7年勤める。その後、野中郁次郎氏に師事。

  • 著者として出版した2作『職場の現象学』『共に働くことの意味を問い直す: 職場の現象学入門』は組織を探求する多くの読者に親しまれている。

「もう同じ痛みを経験したくない」RELATIONSが組織の土壌づくりにこだわる理由

●長谷川: 自律分散型組織の探究をしていく中で、偶然令三社の山田さんの勉強会で前川製作所のことを学ぶ場があり、そこで露木先生に初めてお会いをしましたが、話していることにすべてが共鳴する不思議な感覚でした。この場で改めてお話できることがすごく楽しみです。

●露木: 不思議なご縁ですよね。長谷川さんとは不思議と言葉が通じ合う感覚が私にもあります。先日は御社の月次全社会議(通称: Harvest Meetup)にも参加させていただき、ますます興味深く思っております。本日は宜しくお願い致します。

●長谷川: 先日、露木先生にも見学者として全社会議にご参加いただきましたが、弊社では”組織の土壌”を耕す施策に力を入れており、あのような全社対話の場を多く設けています。
月次全社会議、年2回の全社合宿(通称: 生命力合宿)、週次全社会議(通称: Happy Marche)の3つの施策を現在は行っています。これらはいずれも、それぞれのメンバーが自分の想いにつながり、そして場につながることで本音を通い合わせることを大切にしています。しかし、どれもまだ完成形ではなく、進め方やアジェンダの扱い方などを毎回工夫し、実験しながらベストな形を模索している最中です。

●露木: 本音を通わせることや、場とつながるということはほとんどの会社ができていないんですよね。”想い”の部分は端に置いておいて、売上や目の前の課題に注力してしまいがち。結果、掲げているミッション・ビジョン・バリューが、社員一人ひとりにちゃんとつながっていないのでは?と疑問に感じることも多いんです。
一般的には”個と個があって場をつくる”と捉えると思うのですが、現象学では、”元々我々はつながっていて、場があるから個が生まれてくる”という考え方をします。人と人との関係の中から、個というものが切り出されてくるというイメージです。だからこそ、場につながることが前提としてとても大切だと考えます。
簡単なことではないのですが、RELATIONSさんはそこに対して積極的に自社で実験されていて本当に尊敬しています。

●長谷川: ありがとうございます。私がここまで”組織の土壌”に力を入れる理由は、経営者としての苦い経験が影響しています。過去、組織が急速に成長して社員が増えていった時期、社内のバランス調整や“〇〇しなければならない”という”べき論”に支配され、言いたいことが伝えられなくなっていました。このままでは部門ごとの対立が加速し、分裂が起こりそうでした。そんな中で私は関係を取り持つことを必死でやってましたが、「長谷川さんがやりたいことが分からない」と社員たちに言われて。
その後、一部事業の譲渡や、システム・コーチングを通して内省が深まったとき、「組織課題の一番の原因は自分の本音を場にきちんと表明しないことにあったんだ」と気づけた瞬間がありました。
一言では言い表せないほどいろんな経緯がありましたが、それを突破した今、以前よりずっと楽に自然体で生きられている自分がいます。「自分が経験したように一人でも多くの人が自分の衝動や沸き起こるエネルギーから働く会社、つまり、会社に生命力があふれるような体験を、サービスとしてもっと届けたい」という願いは年々強くなっています。

 RELATIONSの全社会議で見えた「対話の本質」

対話の本質は”一緒に言葉にしていくプロセス”

●露木: 「生命力」というお話がありましたが、御社にはだいぶ生命力が宿ってきていらっしゃると思います。先日見学させていただいた全社会議でも、すごく丁寧に場をつくっていらっしゃるのが印象的でした。
特に予算申請の時間は印象的でした。

補足: 露木先生に見学いただいた全社会議では、「予算申請の相談」(予算申請:2024年1月時点では支出申請と呼称)という議題を扱う時間を設けていました。これはRELATIONSとしても今回初めての試みでした。普段フルリモートワークの弊社では、Slackで予算申請をして、それに対してメンバーがスタンプやコメントで賛成や反論などの反応をしながら統合的な意思決定を行うことが通常です。しかし、文字情報だけでは、申請者の想いや意図、背景が見えにくく、そのため、申請に対して反論をしたい人がいても、時にやり難いことがありました。
今回のアジェンダでは、社員1名が「システム・コーチングの実践コースを受講したい」、もう1名が「システム・コーチングの資格取得に自費で通っているが、一部を会社が費用負担してくれないだろうか」という相談を持ち掛けていました。会社の予算として申請したい理由について申請者が語り、それに対して社員たちが個人の見解や問いを投げるという対話形式で行われました。「予算申請して良いと思う」という意見や「なぜこの資格にこだわるのか?」「ほかの有資格者がすでに組織内にいるが、複数人が取得する必要性があるのか?」という質問、また「予算を使うことであなたはどうなりたいと思っているのか?」という申請者の覚悟を問うようなさまざまな投げかけもありました。

誠実に想いを伝える申請者を応援したいという空気がありながら、それに対して必ずしも賛成の意見だけではなく、くさびを刺すような意見もあって。その意見自体というより、“想いや意見をこれほど交わせる場をつくり上げるまでに、ものすごい苦労があったんだろうな”という変遷に想いを馳せていました。
また、対話の本質がそこにはありました。対話って単なる言葉のやりとりだと思われがちなのですが、実は本質は、”一緒に言葉にしていくプロセス”なんです。言葉にまだなっていない暗黙知や自分の感覚のなかに眠っているものを、一緒に言葉にしていく共同作業。それが対話だと私は考えています。それが繰り返されることで関係性がよくなり、組織の土壌である”田んぼ”がフカフカになるんですよね。

●長谷川: ありがとうございます。そのようにおっしゃっていただけて嬉しいです。申請者の想いもそうですが、まだ意思が固まりきっていない申請者の”不安や迷いの声”もちゃんと場に出たことが良かったなと思います。予算申請の「相談」というアジェンダの設定にしたからこそ、双方がより声を出しやすくなったということもあるかもしれません。

傾聴は組織づくりの一丁目一番地

●露木: 創造的な場づくりをするための対話の前提として、相手の話を傾聴することは非常に大切です。傾聴は、組織という”田んぼ”をフカフカにするための入り口、つまり”田起こし”だと考えています。現象学では「判断停止(エポケー)」と言います。判断停止というと思考停止のように考えてしまいますが、そうではなく自分の頭に浮かんできたものや自分の枠組みを一旦置いて(判断の一時停止)、”この人は何を言っているのか、言いたいのか、何を感じているのか”に集中しましょうということです。

ルビンの壺の絵のように、壺を見ている人は、背景の白い2人が見えない。どちらからの見方に偏ってしまうと、他の見方がしにくくなるんです。現象学では、”場”でつながっているときの感覚から物を見ることと、個人としての意識をもって人と対峙するということを行ったり来たりしながら、両方の観点に立つことで、多様なものごとの見方をすることを大切にします。
また、その次のステップとして、色々な意見や情報が出てきたときには、一旦受け入れはしつつ、その人の意見や感情が、本当にその人の純粋な体感覚から出ているものなのかについて吟味することも必要です。その人の自己中心的な考えから出てきている言葉なのか、そうではなく、本当に感じたことを何とか言葉にしようとしているかは、よく話を聞いていれば誰でもわかるものです。

●長谷川: それはすごく賛同します。言語が優先されすぎている時代なので、”目に見えないし、そんなこと分からないでしょ”という見方をする人もいます。でも、”最もらしいことを言っているけど、これは偽りだな。”とか、”この人は本音とまだつながりきれていないな。”というのはやっぱり感覚で察知できてしまうんですよね。それくらい人間の感覚は鋭いものだと思います。

●露木: 自分勝手な想いや言い訳、感覚が伴っていない意見に対しての違和感は、人間なら誰でも分かることだと思っています。本来、人間として当たり前にできるはずのことなんですが、実際、なかなか出来ている組織はない。難しいことなんですよね。そういう意味で、RELATIONSさんは普通じゃないけど、普通のことをしているんです。(笑)

仕組み化は落とし穴。組織全体で“共通感覚を育てる”には

●露木: 予算申請のアジェンダで印象的だったのは、「会社としてどの領域の学びを推奨するのか、いくらそこに掛けるのかは、長谷川さんが全部決めてもいいのではないですか?」、「学びのために使う費用の枠組みを作って、そのなかで皆が使えばいいのでは?」という意見が出たときです。それらに対して長谷川さんは、「仕組み化するのではなくて、みんなでちゃんと話をしながら決めたほうがいいと思っている」という発言をされた。それがすごくいいな、と思ったんです。
トップダウンの企業であれば、社長がぴしゃりと「その研修費用、出してあげればいいじゃん」と一言いえば終わってしまう。でもそうしないところに私はすごく共感を持てました。

●長谷川: 学びに使う費用を制度化してしまうと、お金を使うことが簡単になり、使うことに対してハードルを下げてしまう感覚があります。私としては、全社で感覚が共有される場を持つほうがいいなと考えています。制度化することで整理され、効率的になるように見えますが、大切なものが切り取られていくようにも思います。意見を交わすプロセスのなかで、相手と自分それぞれの認知を深めることもできますし、それがRELATIONSという場につながることを助けると思っています。

●露木: とても大事なことですね。あらゆるものを仕組み化することの弊害として、組織全体としての感覚が育たないということが挙げられます。仕組みが独り歩きし、「その仕組みのなかで運用していればそれでいいか」となり、中身を問わなくなっていくんです。例えば、同じ10万円という費用を使うにしても、Aさんには組織の成長にもつなげたいという強い願いがあり、Bさんは自分の利益だけを考えているとする。そうなると、金額は平等でも、想いの量としては全然平等ではないんです。権利の横行は、有機的ではなく、機械的な組織へ向かってしまう一番の落とし穴だと思います。
「なぜ自分たちにとって、これは是なのか?あれは非なのか?」「”これはちょっとズレているよね”と感じるのはなぜなのか?」面倒でも型にはめず、一個一個の事象に対して共有し、すり合わせることで感覚は育っていきます。

●長谷川: たしかにそうですね。みんながきちんと自分事化して会社に存在し、そこから総合的にお金の使い方を決めていく方法は、私としてはやっぱりいいなと思っています。感覚を育てるためにも、対面での相談の場は今後も改良しながら継続できればと思います。


後編につづきます。

(執筆:斉藤 里菜)

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