自律分散型組織における感情と論理のあいだ
こんにちは、RELATIONS代表の長谷川です。弊社では、2019年に「ホラクラシー」を導入しました。
ホラクラシーは、自律的に組織構造を進化させ続けられる組織運営の手法として、とても優れたシステムだと感じています。ですが同時に、ホラクラシーだけでは扱いきれない「人の感情」に対するアプローチが必要だとも感じています。
このnoteでは、自律分散型の組織づくりにおけるRELATIONSの歩みと、純ホラクラシーを全社導入して得られたもの、そして失ったものに対する解決アプローチについてご紹介したいと思います。
数十名規模での純ホラクラシー組織の運営は、国内ではまだ実践例が多くないと思いますので、ご参考になれば幸いです。
自由と規律。カオスな組織に "ホラクラシー"を導入
RELATIONSがホラクラシーを導入したのは、2019年夏のことです。
当時の状況は「自由」と「規律」のはざまで、さまざまな解釈が生まれ、組織が対立構造になってしまっていました。
なぜそのような状況に陥ってしまったのか。いま振り返ると、2つの原因があったと考えています。
ひとつは、ルールをほとんど定めずに、フラットな組織づくりを目指してしまったこと。
2017年、RELATIONSは「ええ会社をつくる」というミッションを再定義しました。それと同時に、取締役の撤廃やルールの緩和など、自律分散型の組織を志向した組織変革を進めていきました。
ですが、ルールなきフラットな組織にしてしまったことで、情報セキュリティやガバナンス面での問題が生じ、組織の秩序が弱まってしまいました。そこで緊急的に、トップダウンで経営機能を一時復活させましたが、これもまた経営に対する不信や不満を生んでしまうことになりました。
もうひとつは「経営者として、自分が何に突き動かされているかへの認知とその発信が弱かった」ということです。
私としては、個々人がやりたいことを自由にやってほしいという思いがありました。ですがこのスタンスが、収益を支える既存事業と、新規事業それぞれに携わるメンバーの対立構造を生んでしまいました。また「自由にやってほしい」と言われても、どの方向に向かって頑張ればよいのかわからない、といった混乱も引き起こしてしまったと思います。
正直なところ、色んなメンバーの意見や価値観を大切にしたいと思っていたあまり、私自身のやりたいことがわからなくなってしまった。また、自分の主張がさらなる分断を生んでしまうのではないか、という発信に対する恐れもありました。
このままではメンバーの不満が溜まり、組織が崩壊しかねない。そこでカオスな状況から脱却するために、ホラクラシーを導入することにしました。
ホラクラシーによって組織が得たもの・失ったもの
ホラクラシーとは、2007年に生まれた、自主経営(セルフマネジメント)を実現する組織運営のテクノロジーです。
その特徴としては、以下が挙げられます。
ホラクラシーは、役割やプロセスなどの組織構造をガバナンスします。
これによって、組織に秩序が生まれ、パーパス(目的)に向かって個々のメンバーが自律的に動けるようになりました。具体的には、以下のような変化が得られました。
また組織構造も、経営が指示することなく、自律的に変化させ続けることができています。
一方で、ホラクラシーによって組織が失ったものもありました。
例えばホラクラシーでは、ミーティングのプロセスも憲法で詳細に決まっているため、雑談や自由な議論ができません。例えるならば「強制ギブス」のような感覚が導入当初はありました。
組織全体の構造を決める大ガバナンスミーティングでは、それまで意思決定を担っていた事業責任者からするとプロセスが煩わしいし、一方の現場メンバーも、組織構造の改善提案を自ら挙げられると言われても起案しづらい。
プロセスは明確であっても、型にはめられるようなやりづらさや、本来のホラクラシーの良さを生かしきれないような心理的安全の欠如がありました。
"ロール" と "ソウル" を分けることの難しさ
特に難しかったのは、ロール(役割)とソウル(感情)を分けて取り扱うことです。
ホラクラシーでは「ロールとソウルを分ける」「人ではなく、ロールとしての関係性に目を向ける」ことが大事だとされています。ですが実際には、なかなか受け入れづらいものがありました。
私自身も、"経営者" ではなくいくつかの "ロール" にアサインされる形になったことで、目的や責務は明確化された一方、感情がついていかないことがありました。これは組織の各所で起こっていたと思います。
また、ホラクラシーは個々人が感知するひずみ(理想と現実のギャップ)駆動で組織を改善していくことができますが、「感情」や「人間関係」については処理できないという点に留意しなければなりません。
仕事のひずみとして挙げられたものも、実は人間関係のひずみが原因になっているケースもあります。その解消のために、ホラクラシー外で特定の人に負担が偏ってしまうといった問題もありました。
インテグラル理論による「内面」へのアプローチ
ホラクラシーだけでは、真に自律分散型の組織をつくるのは難しいのではないか?
そう感じていた私が参考にしたのが、ケン・ウィルバーの「インテグラル理論」にある4象限モデルです。
これは、あらゆる物事が「個人・集団」「外面・内面」の2軸・4象限から統合的に捉えられるという理論です。組織開発の文脈で考えるならば、ホラクラシーは右下の「システム」にあたります。
ホラクラシーは自律的に進化させ続けることのできる素晴らしいシステムですが、組織を変容していくためには、推進する人々のマインドセットや組織文化などの「内面」(左の象限)も変化させていく必要があります。
私自身はもともと「内面」に意識が向きがちであったため、組織の立て直しの際にホラクラシー(外面・集団)を導入したことは、正しい判断だったように思います。
一方で、ホラクラシーだけでは人の感情や人間関係に関するひずみを解消することができないため、内面に対する別アプローチが必要だと考えました。
人の感情と、組織の関係性に向き合うCAMPFI:RE
そこでRELATIONSでは、2021年から「人の感情」や「組織の関係性」について別の場を設けて扱うことを始めました。
その推進を担っているのが、「CAMPFI:RE」という名のロールです。
このロールが主導して、組織と個人の内面に向き合うための「TAKIVIVA」という全社合宿を、4ヶ月に一度開催しています。
普段、ホラクラシーでは扱えない個々の「内面」にしっかりと向き合い、個のパーパスを見つめることを目的としています。そのためプログラムでは、内省や他者との共有、共同作業などの時間を多く設けています。
他にも、外部コーチを招いたシステムコーチングや、1on1などのパーソナルコーチングやカウンセリングなど、組織や人の内面に向き合えるような機会を増やしました。
こうした取り組みを始めてから、ホラクラシーの運営にも変化が出てきています。たとえば組織構造を決めるガバナンスミーティングでは、以前よりもメンバーからの起案が出やすくなりました。この変化は、個々のパーパスを共有したことで、心理的安全が生まれたことが一因ではないかと思います。
組織と個のパーパスが共鳴する組織をつくる
全員が自分のパーパスに向き合うことは、簡単なことではありません。
ですが、お互いのパーパスを聴きあったり、組織のパーパスの意味づけを探求していくことで、一歩ずつ解像度を高めていくことができると実感してきています。
そして、組織と個人のパーパスが共鳴し合うことが、日々の業務やクライアントへの価値提供にもつながると思っています。同じプロジェクトの進め方だとしても、パーパスがあるのとないのとでは、相手へ伝播する情報の総量が変わるからです。そこに想いがあるかどうかは非常に重要なことだと考えています。
今後も、組織と個のパーパスに向き合い、自律分散型の組織づくりを推進していきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
RELATIONSでは、ええ会社をつくるための仲間を募集しています。ご関心のある方がいましたら、ぜひお話しさせてください。
今後も定期的に発信していきたいと思いますので、よければ公式マガジンもフォローいただけますと幸いです。