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働き方の選択肢を広げよう。会社にマッチした制度をつくるための3つの発想

こんにちは、RELATIONS広報の斉藤です。
コロナ禍をきっかけにオフィスへの出社からリモートワークへの切り替えが進むなか、2021年ごろからは居住地に制限を設けない大手企業も増え始めています。
 
社員のエンゲージメント指標が企業評価の一つとして重視されている昨今、働き方の多様性をどのように表現するかは、人事にとっても軽視できない課題ではないでしょうか。
 
今回はそういった施策の一例として、弊社で2022年1月から施行している遠隔地居住制度の設計から実装までの試行錯誤のプロセスをご紹介します。自社制度として取り入れるべきかどうか悩まれている人事担当の方の参考になれば幸いです。

1. 遠隔地居住制度の概要と活用状況

まずは簡単に、制度の概要と現在の活用状況についてご紹介します。

【概要】※一部のみ(2024年3月時点)

・居住地は国内全域が対象
・支給額
 交通費:エリア毎設定単価×回数
 宿泊費:6,000円×回数
・全社員集合のオフライン会議への参加は義務。  
※月1回の全社会議(東京開催)、年2回の全社合宿(国内で都度変更)を行っています。
・社内の役割や案件の割り振りに関して優遇はしないため、移動負担等を各自十分に検討した上での利用を推奨。

【活用状況】

2022年から施行開始したこの制度は、全社員のうち約13%が活用しています。居住地はさまざまですが、地元である関西や九州など、関東からは離れた場所に住んでいる社員がほとんどです。
※ 新型コロナの拡大をきっかけに東京の自社オフィスは撤廃し、虎ノ門にあるWeWorkに入居しています。

目指すのは“社員が躍動し、心から人生を楽しむ世界”

制度設計を行う場合、 「理想に近づけるための制度」もあれば、 「課題を解消するための制度」もあると思います。 REの場合、理想と課題はそれぞれ以下にあったと言えます。

【組織の根幹にある思想】

すべての制度設計には、経営者の哲学や思想が顕著にあらわれるものだと思います。弊社の遠隔地居住制度には「会社に関わる人が躍動し、心から人生を楽しむ世界をつくりたい」という代表・長谷川の思想が反映されています。
 
具体的には以下の3つが実現できている世界を掲げています。

  • 組織、個人の「パーパス」がともに響き合っている状態

  • 素直な自分でいられる状態

  • 人生(仕事・家族)を自ら主体的に歩んでいる状態

 実現に向けた方策はさまざまありますが、その一つの取り組みとして、社員が自由に住む場所を選択できるという制度を検討し始めました。
 

【組織にあった課題】

「自己実現とパーパス実現の境界線が曖昧ではないか?」という声は、制度検討以前から社内で出ていました。
 
個人に対する自己実現の支援が、果たして会社の成長やパーパス実現にどこまで紐づいているのか?という問いは、どの会社でもあるのではないでしょうか。目に見えて事業成長に貢献できる数字を測ることもできないため、会社としてどこまで「自己実現」の領域を負担するのか?という疑問は出て当然のことでしょう。
 
また、「引っ越すことで自分らしい人生を取り戻せる」という解釈も一人ひとりの感覚に依るため、希望した人に対して”だけ”お金が使われるということへの不平等さからも不満の声があったように感じます。

運用開始までの策定プロセス

当初はバックオフィスメンバーと代表の長谷川が中心となり制度設計を進めていました。しかし、制度についてひずみ(現状と理想のギャップ)を感じている当事者が制度のルールを提起するのが自然なのではないか?という話から、遠隔地居住を希望していたメンバーを中心に繰り返し対話が重ねられました。

【らしさの追究が第一義】

そもそも遠隔地に住む社員の交通費を会社が出す目的や、それによって何を生み出したいのか?という問いのもと議論は進みました。さまざまな意見が出ましたが、人生の幸福度を高めるための「らしさ」を追究し、会社のパーパスに向かい前進することが主目的であると集約されました。
 
実際に、地元九州に4年間在住しながら営業・コンサルタントを行っていた一人の創業メンバーの体験も大きなヒントになりました。
「移住してからは、地域の企業とつながり支援していくなかで収益を上げることができている。そこにやりがいを強く感じるし、自分のコミュニティで価値発揮できることにつねにワクワクしている。地元だと安心感を持っていただき、仲間として受け入れてもらいやすい傾向にあるのも事実。」
また、育児や将来的な介護を含めた家族との関係性を維持しやすくなるというメリットもあるだろう、という他のメンバーからの意見もありました。

【まずは運用スタートすることを優先】

実は議論の途中段階では、「らしさ」の追究以外にも、複数の論点が混在していました。

  • 全社のバランスを取るために、関東近郊に住むメンバーへの優遇も検討した方が良いのでは?

  • 中途で入社したての社員が利用した場合、果たして会社に価値貢献できるのだろうか?

  • 全社員が制度を使う状態になったとき、維持できるのだろうか?

しかし最終的には、まずは1つのイシューに焦点を絞って全体の制度設計をざっくりと行い、統合的意思決定プロセスにのせて運用を始めてみるという意思決定をしました。施行後に個別事象でひずみが生まれた際には、別イシューとして都度扱っていこう、と。

“RELATIONSの社員は、最もパフォーマンスを発揮できる環境を自己決定できる人材であってほしい”、“性善説を信じる経営者でありたい”、という代表の想いも後ろ支えになっていたようです。
こうして、活用状況や金額を全てオープンにすることを前提に、運用がスタートしました。

“事業特性と組織文化”を活かすことが、成功可否の鍵

遠隔地居住を継続している社員にアンケートをとったところ、制度への満足度は非常に高い結果となりました。家族・友人と過ごす時間が増え、「公私のバランスがよくなった」「日常の何気ないひとときを過ごしているときに、幸せだなと思う瞬間が増えた」という声もあります。いまのところ、当初目的としていた「らしさ」の追究が少しずつ実現できてきていると言えそうです。
 
弊社で制度をうまく活用できている理由は、“事業特性と組織文化”が制度とうまくマッチしたことも大きいと捉えています。

a.事業特性とのマッチング

弊社はコスト最適化と組織活性化のコンサルティングが主事業で、コンサルタントが全国各地の顧客先に訪問するスタイルが大半です。地方企業の顧客も多いため、出張する上で都内近郊に住んでいることが必ずしもメリットにはならないという特徴があります。
むしろ九州に住んでいるメンバーのように、地元の方との関係性を築きやすくなるという優位性が働くことも往々にしてあります。

b.組織文化とのマッチング

コロナ禍をきっかけに完全リモートワークへ切り替えましたが、もともとフルフレックス制で、全社の集まり以外は任意のオフィス出勤でした。リモートワークが中心で、日頃顔を合わせる機会が少ない状況。だからこそ合宿や全社会議での対話文化を大切にし、オフラインでのコミュニケーションを担保しています。
 
弊社は一例に過ぎませんが、管理監督面での不安がある場合など、組織の特性とマッチしない場合には遠隔地居住制度を導入しないという意思決定をすることも大切な視点かもしれません。

制度をつくる上で助けになる3つの発想

制度を一つ作るにしても、設計から運用までにはいくつもの不安・懸念点の払拭が必要で心が折れそうになることも多いと思います。そこで最後に、弊社が制度をつくるときに意識している3つの発想をご紹介します。

①会社の哲学に立ち返ろう

働き方を改革しなくてはいけない!という”べき論”が起点となり、導入するツールや手法を探すという順番では本末転倒になりがちです。まずは「どんな会社でありたいのか?」という経営者の思想・哲学に立ち戻り、それを実現するために最適なツールや手法を考えることが大切だと考えます。

②「リーンにやったらええやん」

これは社内で何かにトライする際にRELATIONSでよく使われているフレーズで、「まずはやってみよう」というメッセージが込められています。
前提としてあらゆる制度は一長一短であり、すべての個別事象にピタリとはまるものは存在しないと考えています。弊社の遠隔地居住制度もまだ実験の途中です。
少人数の組織であれば、まずは一定期間、希望者に遠隔地で居住をしてみてもらうなど、プロトタイプで実装してみる。大企業であれば、一部の部署で試験導入をしてみるというアクションをとる。そのようにして、短いサイクルで仮説検証を繰り返すことで最適な制度へと洗練させることができるのではないでしょうか。

③課題解決はテンションドリブンで

弊社はホラクラシー®(自律分散型組織)で組織運営をしています。

ホラクラシー®の世界では、テンションドリブンと言って、理想と現実のギャップが生まれた際に、そのひずみに合わせて課題解決しましょうという原則があります。

具体的なプロセスとして、以下の2点を確認します。
1.今回の制度案が理想に近づくための一手になる起案か?
2. 理想に近づく可能性がある中で、 不可逆な事態(起案によって必ず生じる甚大な悪影響)が起こるか?

この2点がクリアできれば「試してみよう」というプロセスです。 まずは運用を開始してみて、別のひずみを感じた人がいた場合にはそのひずみを丁寧にヒアリングし、柔軟に変化しながら都度解決をしていくという方法です。
現状起こっていない課題については“ひずみではない”と切り離す思考は、運用までのプロセスをシンプルにする上で参考になる考え方かと思います。

どのような制度が自社に適しているのか? まだまだRELATIONSも検証途中です。会社の理想状態を目指し、これからも探究をつづけていきます。
 
遠隔地居住制度以外にも、さまざまな実験をnoteでご紹介しています。ぜひご覧ください。

(執筆:斉藤 里菜)